自閉症などの発達障害を抱えている皆さん、その家族の皆さん、周りに障害を持った方のいる皆さん、こんにちは。
皆さんは、「自閉症者がどんなことを考えて行動しているのか知りたい」と思っていませんか?
そんな自閉症の事で悩んでいるすべての方に読んで欲しい本があります。
本記事で紹介する『自閉症の僕が跳びはねる理由』では、自閉症当事者の作者から自閉症者以外ではわかりにくい心理や心情について細かく語ります。
それでは一体この本がどんな本なのか、少し覗いてみましょう。
作者、東田直樹さんとは?

1992年8月、作者の東田直樹さんは会話のできない重度の自閉症を持って生まれてきました。
けれども成長していく過程で、パソコンや文字盤の指差しによって人とコミュニケーションをすることができるようになっています。
そんな作者が13歳の時に執筆したのが、『自閉症の僕が跳びはねる理由』です。
この作品は、国際的な作家のデイヴィッド・ミッチェルさんにより翻訳されたのを皮切りに、現在では28ヶ国30言語に翻訳され、世界的なベストセラーとなっています。
本書の内容
本書は、主に二つのパートに分かれています。
- 自閉症についてのQ&A
- 各章末に添えられた短編小説
1. 自閉症についてのQ&A
このパートでは、自閉症者に関して一般の人が疑問に思うことをQ&A形式で一つ一つわかりやすく説明していきます。

本書の58の質問の中から、特に印象的だったものを一部抜き出してご紹介してみます。
Q: 文字盤を指差す練習を続けてこられたのはなぜですか?
→人として生きていくためには、自分の意思を人に伝えることが何より大切だと思ったからです。
Q: なぜいつも同じことを尋ねるのですか?
→分かりきったことを何度も聞いてしまうことには、二つの理由があります。
一つは、聞いたことをすぐ忘れてしまうからです。記憶の仕方が普通の人とは違って、今聞いたこともずっと昔に聞いたことも頭の中の記憶としてはそんなに大差がないのです。
もう一つの理由は、言葉遊びができるからです。いつも使っている言葉なら、自閉症者も容易に使うことができます。そうやって言葉のキャッチボールをすることがとても愉快で、まるで音とリズムの遊びをしている感覚になるからです。
Q: すぐ返事をしないのはなぜですか?
→相手が話をしてくれて自分が答えようとするときに、自分の言いたいことが頭の中から消えてしまうからです。
これは普通の人には少し理解しにくい感覚かもしれません。
ですが、言おうとした言葉が一旦消えてしまったら、もう二度と思い出すことはできないのです。
Q: どうして相手の目を見て話さないのですか?
→僕は、どこを見て話しているのでしょうか。それは、地面でも相手の後ろの風景でもありません。
実は、人の声を見ようと耳だけでなく目もそばたてているのです。
声は見えるものではないけれど、僕らはすべての感覚器官を使って話を聞こうとします。
聞き取ることに集中しているので、何も見えなくなったり、見えているとしても何が見えているのかを意識することができなくなるのです。
Q: 声をかけられても無視するのはなぜですか?
自閉症の人にとって、声だけで人の気配を感じたり自分に問いかけられている言葉だと理解したりするのは、とても難しいことだからです。
なので、声をかける前に名前を呼んでもらって自閉症者の人も気がついてから話しかけてくれると、とてもありがたいのです。
Q: 普通の人になりたいですか?
今までは正直ずっと、普通の人になりたいと願っていました。
ですが今は、このままの自分でいることを望むかもしれません。
なぜこのように思えるようになったかというと、人は障害のあるなしに関わらず努力しなければいけないし、努力の結果幸せになれることが分かったからです。
自分を好きになれるのなら、普通でも自閉でもどちらでもいいと思っています。
Q: 跳びはねるのはなぜですか?
僕が跳びはねるのには、二つの理由があります。
一つは、跳んでいる自分の足や叩いている自分の手など、自分の体の部分がよくわかって気持ちがいいからです。
もう一つが、体が嬉しいことや悲しいことに反応して、体が硬直して思い通りに動かなくなるからです。
縛られた縄を振りほどくように、ぴょんぴょん飛び跳ねるのです。
物を見るときどこから見ますか?
普通の人は、全体を見てそれから部分を見ると思います。
ですが自閉症者の私は、最初に部分が飛び込んできて、その後徐々に全体がわかるようになります。
その部分一点に心が奪われて、他に何も考えられなくなるのです。
Q: 時間の感覚はありますか?
私たちにとって時間は、
- ずっと続いている
- はっきりとした区切りがない
- 紙に書けない
ものです。
そのため、自閉症者の私にとっての1秒は果てしなく長く、また24時間は一瞬で終わってしまうのです。
自分で自分をコントロールすることが難しい自閉症者にとって、いつも次の一瞬に何をしているのかがわからなく、それが不安となっています。
Q: どうして水の中が好きなのですか?
水の中にいれば、静かで自由で幸せです。
誰からも干渉されることもないので、自分が望むだけの時間があります。
水の中なら、陸ではわからなかった時間が一定の感覚で流れているのがわかるのです。
2. 短編小説
このパートでは、自閉症者の作者がみんなに言いたいこと・伝えたいことを物語にして伝えようと試みています。

この本に出てくる小説のタイトルは、
『足りない言葉』『夏の気分』『カラスとハト』『側にいるから』
などで構成されています。
どれも13歳の子が書いたとは思えないような内容で、それでいてホッとするようなお話です。
それではこれから少し、これらの小説がどんなものなのかちょっぴりご紹介してみます。
『足りない言葉』では、言葉のキャッチボールがいかに大変かを謎解きのように面白おかしく教えてくれます。
『夏の気分』では、自閉の人を蝉に例えて、彼らがどんな気持ちで普段生活しているのかをわかりやすく表現しています。
(引用)僕たちは、どんな時も急いでいます。まるで学校に遅刻しそうな子供のように。急がないと夏が終わってしまう蝉のようなもの。人間の僕たちは、一生時間と闘い続けます。時間の流れに乗れない僕たちは、いつも不安です。
『カラスとハト』では、幸せについて優しく語ります。
人はみんな幸せを求めている。幸せになりたいんだ。
『側にいるから』は、本書の最後に出てくる小説です。
主人公の駿は、事故で命を落とし天国へ行ってしまいます。
天国での暮らしは快適なものでしたが、お父さんとお母さんが自分のことで悲しんでいる様子を見るたびに、胸が引き裂かれる思いになっていました。
もう一度地上に戻り、お父さんとお母さんの元へ行き、彼らを元気にしたいとお願いします。
生まれ変わりとして、またお父さんとお母さんの元へ生まれてきて、幸せに暮らすというお話です。
この記事の編集者の私は、この小説を読んで深く考えさせられました。
こんな素晴らしい小説があるのかと。
自閉症者という他の人との違いを持って生まれてきた作者だからこそ書けるものなのだと思います。
ぜひ、一度皆さんにも読んでみてもらいたい作品です。
終わりに

いかがでしたでしょうか。
この記事を通して、自閉症という困難を抱えながらもそれに立ち向かい、前向きに生きていている人がいることを知ってもらえたら嬉しいです。
悩んでいるのは自分だけじゃないということ、障害を個性に変えて少しでも生きやすくすることを考えるきっかけにしてもらえたら幸いです。
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願いします。
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